やがて彼女の動きが

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うしろに組んだ両手でこぶしを





 じつをいえば、リヴァのベルガリオンは自分が王位を継ぐとは考えてもいなかった。かれはセンダリアの農場育ちで、子供のころはありふれた農場の少年にすぎなかった。リヴァ王の広間にある玄武岩の王座には公開大學 課程じめてすわったとき、かれの知識を占めていたのは謁見の間や会議室のことより、農場の台所や厩のほうだった。政策はなぞなぞのようなものだったし、外交については代数以上に知らなかった。
 さいわいなことに、〈風の島〉は治めにくい王国ではなかった。リヴァの人々は秩序正しく、きまじめで、義務と市民の責任に対し強い関心を持っていた。このことは、長身で砂色の髪をした君主にとって、正しい統治という困難な仕事を学ぶべく試行錯誤に明け暮れた最初の数年間、おおいなる救いとなった。当然あやまちもおかしたが、そうした慣れないしくじりや過失が惨憺たる結果を招いたことは一度もなかった。家臣たちは、人々をあっといわせた王位継承者である、熱心で誠意ある若者が、同じあやまちを二度とくりかえさないことに気づいて喜んだ。いったん王であることに慣れてしまい、任務が板についたあとは、ベルガリオン――または、かれの好きな呼び方でいうとガリオンは――リヴァの王として、さしたる難問にはぶつからなかった。
 しかし、ガリオンが持っている称号はほかにもあった。純然たる名誉職もあれば、多少実務をとも公開大學 課程なうものもあった。たとえば〈神をほふる者〉という称号を得てはいたものの、実際に神を殺す機会などめったにあるものではなかった。〈西海の主〉については、ガリオンはほとんど無関心だった。というのは、波や潮には監視は不要であり、魚はたいがい自分のことは自分でできると早くから結論づけていたからだ。ガリオンの頭痛の種は、もっぱら〈西方の大君主〉という大仰なひびきの称号だった。アンガラク人との戦いが終わったこともあって、最初はこの称号もその他もろもろの称号と同じで、単なる形式であり、いわば残りの称号の総仕上げともいうべきあまり意味のないつけたしだろうとたかをくくっていた。なんといっても、それのために税収入があるわけではなし、特別な王冠や王座があるわけでもなく、毎日の問題を処理する大臣がひかえているわけでもなかったからだ。
 ところが、すぐにガリオンはいまいましい事実に気づいた。人間の特徴のひとつに、難問を責任者におしつけたがる傾向があるという事実である。〈西方の大君主〉がいなかったら、仲間の君主たちは複雑な難事件を自分たちで処理する方法をちゃんと見つけただろう。しかしそのおおげさな地位をガリオンが占めているかぎり、かれらはそろいもそろって、ことさら難解で、ことさら解決不可能な問題を、嬉々として持ち込んできては、四苦八苦するガリオンを尻目に、信頼の笑みをうかべて太平楽をきめこんでいるのだ。
 そのいい例が、ガリオンの二十三歳の夏に、アレンディアでもちあがった出来事だった。そのときまでは、その年はきわめて順調に経過していた。セ?ネドラとの関係をだいなしにした誤解もとけ、ガリオンとかれの気むずかしやで小柄な妻は、家庭の幸福として形容されうる最高のときをともに送っていた。マロリーのカル?ザカーズ皇帝の戦争も――一時はこの大陸にカル?ザカーズがいるということが大きな不安の種となったものだが――クトル?マーゴス西部の山中でいきづまり、西方の諸王国の国境には遠くおよばないと公開大學 課程ころで何十年も足踏みしそうな気配を見せていた。ラン?ボルーン二十三世の摂政役をつとめるアナディル公爵であるヴァラナ将軍は、帝国の王座を狙って争奪戦をくりひろげるトルネドラの皇族たちの目にあまる行為を、しっかりとおさえこんでいた。こんなわけで、ガリオンはそのあたたかい初夏の日までは、平和と静寂の時期が訪れることを期待していたのである。そこへ、アレンディアのコロダリン王から手紙が届いたのだ。
 ガリオンとセ?ネドラは居心地のよい王宮で、とりとめのない話をしながら静かな午後を一緒に過ごしていた――ふたりにとって本当に関心があるのは手近な話題そのものよりも相手がいるという喜びのほうだった。ガリオンは窓際のおおきな青いビロードの肘かけ椅子にねそべり、セ?ネドラは金縁の鏡の前にすわって、長い茜《あかね》色の髪をとかしていた。ガリオンはセ?ネドラの髪が大好きだった。その色には心をかきたてるものがあった。匂いはかぐわしく、気まぐれなひとふさの巻毛がいつも、なめらかな白いうなじにゆれていた。召使いがアレンディアの王からの手紙を銀の盆にのせて優雅に運んできたとき、ガリオンはしぶしぶ美しい妻から目を離した。かれはごてごてした蝋の封印をはがしてひびわれた羊皮紙を開いた。
「だれからなの、ガリオン?」セ?ネドラは鏡の中で髪をとかしている自分の姿をうっとりとながめながらたずねた。
「コロダリンだ」ガリオンは答えて、読みはじめた。
「リヴァのベルガリオン王であり、〈西方の大君主〉である陛下に」と手紙ははじまっていた。
「これをお読みの陛下ならびに女王陛下が、健康かつ安らかな御心であられんことを心よりお祈りいたします。本来であれば、わが妃とわたしからの敬意と愛情をここにながながと書き記すところでありますが、当地アレンディアにて危機がもちあがったのでございます。陛下のあるご友人の行為がその直接の原因でありますれば、陛下のご助力をあおぎたく、ここにペンをとった次第であります。
 まことに嘆かわしいことに、われわれの親愛なる友、ボー?エボール男爵はタール?マードゥの戦場で受けた傷がもとで、ついに落命いたしました。この春、男爵が逝去いたしましたことは、口では言いあらわせぬ悲しみをわれわれに与えたのでございます。男爵は忠実な良き騎士でありました。ネリーナ男爵夫人とのあいだに子供がなかったことから、遠縁の甥、エンブリグ卿なる者が跡継ぎとなりましたが、このいささか無分別な騎士は、わたしの見るところ、悲嘆にくれる男爵夫人の迷惑もそっちのけで、相続した称号と土地のことにばかりかまけているのであります。かれは高貴の生まれの者には似つかわしからぬ態度で、新たな領地をわがものにせんと、まっすぐボー?エボールへやってきました。しかも知り合いの騎士だの、友人だの、飲み仲間だのをぞろぞろ引き連れてです。ボー?エボールへ到着すると、エンブリグ卿とその一団は見苦しいどんちゃん騒ぎをくりひろげました。そして全員にすっかり酔いがまわったころ、無作法な騎士のひとりが未亡人となったばかりのほかならぬネリーナ夫人に讃嘆の情をあらわしたのであります。エンブリグ卿は夫と死別した夫人の悲しみを一顧だにせず、さっさとその酔っぱらい仲間と夫人を婚約させてしまいました。現在のアレンディアにおいては、法律上のある理由により、エンブリグ卿にはたしかにそうする権利があるのです。しかし真の騎士であれば、喪に服している親類の女性にかくも無作法におのれの意志をおしつけたりはしないでありましょう。
 この無礼きわまるニュースはただちにボー?マンドルの有力な男爵であるマンドラレン卿につたえられ、その偉大な騎士は即刻馬上の人となりました。マンドラレン卿の勇敢さと、ネリーナ男爵夫人への卿の深い尊敬を思えば、マンドラレンのボー?エボール到着により、いかなる事態がもちあがったか容易に察しはおつきになりましょう。エンブリグ卿とその一団は軽率にもマンドラレン卿の行く手をふさごうとし、その結果数名の死者とおびただしい数の重傷者を出すことになったのであります。陛下のご友人は男爵夫人をボー?マンドルに移し、手厚く保護しておいでです。エンブリグ卿は負傷しましたが、遺憾ながら、回復のきざしがあり、エボールとマンドルのあいだに戦争状態が存在することを宣言したうえ、ありとあらゆる貴族に召集をかけたのであります。その他の貴族はマンドラレン卿の旗のもとに集まり、アレンディア南西部は全面戦争のせとぎわに立たされております。むこうみずな若者であるウィルダントルのレルドリンがアストゥリアの射手の一隊を率いて、昔なじみの同志を支援すべく、この瞬間にも南に進軍しているという情報さえはいってまいりました。
 かようなしだいであります。この件につきまして、わたしがアレンドの王の力を行使したくないのはおわかりいただけると思います。なんとなれば、わたしが判断をくだすよう強いられた場合、わが国の法律によりエンブリグ卿に味方せざるをえないからであります。
 ベルガリオン王、どうかアレンディアへおこしくだされて、そのお力をもって以前のお仲間やご友人を危機からお救いくださるよう、お願い申しあげるしだいであります。この差し迫った災難をかわすことのできるのは、あなたの仲裁をおいてほかにありません。
[#地から2字上げ]希望と友情において
[#地から1字上げ]コロダリン」
 ガリオンは力なく手紙を見つめた。「なぜ、ぼくなんだ?」思わずその言葉が口をついて出た。
「なんて言ってきたの、あなた?」セ?ネドラがブラシを置き、象牙の櫛をとって言った。
「かれが言うには――」ガリオンは言葉につまった。「マンドラレンとレルドリンが――」かれは立ちあがって、悪態をつきはじめた。「ほら、読んでごらん」セ?ネドラに手紙をつきだすとにぎり、ぶつぶつ言いながら行ったりきたりしはじめた。
 セ?ネドラが手紙を読んでいるあいだ、ガリオンはずっと行きつもどりつしていた。「まあ、なんてこと」彼女はがっかりしたように言った。「まあ、なんてこと」
「まったくだよ」ガリオンはあらたに悪態をつきはじめた。
「ガリオン、そういう言葉は使わないでちょうだい。なんだか海賊みたいだわ。これをどうなさるつもり?」
「見当もつかないよ」
「でも、なにかしなくちゃならないでしょ」
「なんでぼくなんだ?」ガリオンはたまりかねたようにわめいた。「どうしていつもこういうことをぼくのところにもちこんでくるんだ?」
「あなたならほかのだれよりもうまくこうした問題を処理できると、みんなが知っているからよ」
「ありがたくて涙がでる」
「ふくれないで」セ?ネドラはそう言うと、考えこむようにくちびるをむすんで、象牙の櫛で頬をぴたぴた叩いた。「冠はもちろん必要だわ――それと青と銀の上着、あれがいいんじゃないかしら」
「なんの話をしてるんだ?」


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