やがて彼女の動きが

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ベルガラスの合図に従




かれらの前に三杯分のおかわりを運んできた給仕は、その場に立ち止まってまじまじとシ公開大學 課程ルクの顔をのぞきこんだ。
「どうかしたかね」シルクが穏やかな声でたずねた。
 給仕はあわてて視線を床に落とした。「ど公開大學 課程うも失礼しました」男は口ごもりながら言った。
「わたしは、ただ――その、お客様のお顔に見覚えがあるような気がしたものですから。今、お顔をよく拝見したら、間違いだということがわかりました」男はそそくさとエールのジョッキを置き、シルクがテーブルの上に置いた金には見向きもせずに、立ち去った。
「どうやらずらかった方がよさそうだ」シルクが小声で言った。
「いったいどうしたというんだ」ガリオンがたずねた。
「やつはわたしの顔を知っていた――ということは、例の懸賞つきの手配書が、ここにも出まわっているということだ」
「たぶん、その公開大學 課程おりだろう」ベルガラスはそう言いながら立ち上がった。
「さっきの給仕が向こうの男たちと何かしゃべっているよ」ガリオンは部屋の反対側にたむろする猟師らしき男たちと給仕が、こちらをちらちら見ながら、せきこんだ様子で話しているのを見ながら言った。
「外に出るには三十秒しかないぞ」シルクが緊張した口調で言った。「さあ、行こう」
 三人はいっせいにドアに向かった。
「こら、そこの三人!」背後から叫ぶ声があった。「ちょっと、待て!」
「走れ!」ベルガラスがどなった。三人は脱兎のごとく飛び出した。鞍に飛び乗ったとたん、居酒屋のドアから五、六人の革衣の男たちがどっと飛び出してきた。
「そいつらを止めてくれ!」通りを駆け抜ける三人の背後で叫ぶ声がしたが、空しく無視された。罠師や猟師は、本来めったに他人のことにはかかわりあいにならない人々なので、ガリオン、シルク、ベルガラスは、いかなる追跡隊が結成されるよりも前に、集落を脱出し、水しぶきをあげながら浅瀬を渡っていた。
 シルクは対岸の森に入ってからも口汚く罵り続けていた。小男はメロンの種を口から飛ばすように、罵詈雑言を吐き散らした。神をも恐れぬ言葉の数々は、相手の生まれから家柄、そして不道徳な習慣にまでおよび、じつに表現豊かで多岐多様にわたっていた。その対象はかれらを追いかけてくる者たちだけではなく、懸賞つきの手配書を流布させた者たちにも向けられていた。
 突然、ベルガラスがたづなを引き締めて、さっと手を上げた。シルクとガリオンも老人に従って馬を止めた。シルクはなおも毒づいていた。
「いいかげんにその熱弁をやめてくれんかね」ベルガラスが言った。「今、背後の音を聞いておるのだから」
 シルクはさらに二言三言、呪いの言葉を吐いたが、やがて完全に口を閉ざした。はるか背後から混乱した叫び声や、ざぶざぶと水を渡る音が聞こえてきた。
「追っ手は小川を渡っている」ベルガラスは言った。「どうやら連中は本気でことに当たるつもりらしい。少なくとも本気で追いかけてくるようだな」
「夜になればあきらめるんじゃないかな」ガリオンがたずねた。
「連中はナドラクの狩人なんだぜ」シルクが心底からうんざりしたような声で言った。「何日かかったって追いかけてくるさ――それもただ狩りを楽しむためだけにね」
「さしあたって今はどうしようもない」ベルガラスがうなるように言った。「とりあえず、連中を振り切れるかどうか、試してみよう」そう言うなり老人は、馬の腹を蹴った。
 太陽に照らされた森を、全速力で馬を走らせているうちに、午後もなかばを過ぎようとしていた。下生えはまばらになり、モミやマツなどの背の高い樹木が、まるで柱のように頭上の空高くそびえたっていた。遠乗りにはもってこいの日だったが、逃げるには絶好の日とはいえなかった。逃げるのにもってこいの日など、そうそうあるものではない。
 三人は登り坂のてっぺんで立ち止まり、再び耳をすました。「どうやら追っ手を出し抜いたらしいね」ガリオンが希望に満ちた声で言った。
「そいつは飲んだくれた連中だけさ」シルクが苦々しげに言った。「おそらく本気でわたしたちを狩り出そうとしているやつらはもっと近くに来ているだろう。だいたい、狩りをしているときに声を出すようなやつはいないさ。ほら、あそこを見てごらん」小男はそう言いながら指さしてみせた。
 ガリオンは小男のさす方を見た。樹木の間にちらりと見え隠れするものがあった。白い馬に乗った男が三人のいる方に近づいてくるところだった。男は鞍から身を乗り出し、じっと地面に目を注ぎ続けていた。
「もしあいつが追跡者の一人だったら、完全に振り切るには一週間はかかることだろうよ」シルクはうんざりしたような声を出した。
 そのとき、右側の遠く離れた樹木のかなたから、狼の遠吠えが聞こえてきた。
「このまま進むことにしよう」ベルガラスは二人に言った。
 一向は馬を疾駆させ、全速力で下り坂をかけおり、樹木の間を縫うようにしてひたすら走った。ひづめの音が柔らかいローム層の大地にあたって、くぐもった音をたてた。なかば腐敗しかけた土の固まりが、逃走するかれらの足元から飛び散った。
「こんなことでは、家ほども痕跡が残りますよ」シルクが馬上のベルガラスにむかって怒鳴った。
「今のところは仕方あるまい」老人は答えた。「追いかけっこゲームを始めるためには、やつらと少し距離をあけておく必要があるのだ」
 すると今度は左側から、別の遠吠えがもの悲しげに響いた。心なしか、今度のは先ほどよりも近いようだった。
 さらに二十五分ほども馬を走らせたところで、突然、背後に混乱したざわめきが起こった。警告の叫びが飛びかい、馬たちは恐怖にいなないた。同時にガリオンは、獰猛なうなり声を聞いたって、一行は馬の速度をゆるめて、じっと耳をすました。恐怖におののく馬の悲鳴が樹間にこだまし、しばしば乗り手の罵り声と怯えた叫びとにさえぎられた。狼たちの吠え声はあらゆる方向から聞こえてきた。突然、森が狼でいっぱいになってしまったようだった。ナドラクの賞金稼ぎの乗った馬は恐怖の悲鳴をあげて、思い思いの方向に走りだし、追跡隊はまたたくまにばらばらになってしまった。
 いささか意地の悪い満足を覚えながら、ベルガラスはしだいに遠くなっていく背後の物音に耳をすました。突然、茂みの中からだらりと舌を垂らした巨大な黒っぽい毛の狼の姿があらわれた。狼はベルガラスから三十ヤードほど離れた所で立ち止まると、後ろ足で座り、黄色い目でじっと一行を見つめた。
「馬のたづなをちゃんと引き締めておくのだぞ」老人は仰天した馬の首をそっとたたいてやりながら、穏やかな声で言った。
 狼はひと言も発せず、ただじっと見つめているだけだった。
 ベルガラスは狼の視線を冷静に受けとめ、やがて感謝のしるしに一回、大きくうなずいた。狼は立ち上がると、向きを変えて、森の中へ戻っていった。途中で一度だけ、肩ごしに振り返って三人の方を見た。そして鼻づらを天に向けると、中断された狩りの再開を他の仲間に告げる、深い、鐘のように響く声をはなった。身をひるがえしたかと思うと、狼の姿はすでになく、吠え声の余韻だけが残っていた。



ベルガラス
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