目的のために手を組む
マリアに微笑まれて、歩はうつむいた。
確かに孤軍奮闘しているより、
卓ス彼らと手を組んだ方が確実に東雨宮を潰せるだろう。それは分かる。だが、どうしても素直に受け入れることはできなかった。
歩が内心激しく葛藤していると、
惑わされるなんて、情けない」
静かで綺麗な声が歩を嘲った。全員の視線が今までぼぅっと立っていたレイチェルに注がれる。
こんな薄っぺらい言葉に惑わされるなんて、歩、あなたらしくない。」
感情を押し殺したような、淡々とした物言いに、歩は振り返る。
レイチェル」
あなた、忘れていない?葉月は東雨宮の、宗次郎の実子。そしてあの源一郎が溺愛している孫。」
わかってるさ」
わかってない。彼女を消さなければ、心の平穏は訪れない。何度もそれを確かめ合ったでしょう」
分かってるって言ってるだろ!」
レイチェルのまるで歩を洗脳す
卓スるような言葉に、ザンは呆然とした。
レイチェル何を言っているんだ」
ゆっくりとレイチェルに近づき、その肩にそっと触れたザン。
レイチェルはグリンゴーストにいたとは思えない程華奢だった。
透けるような白い頬に一切の表情を見せない、彫像のような彼女の顔を見つめる。
駿」
お前は一体」
レイチェルはまっすぐにザンを見つめる。その表情には相変わらずなんの感情も浮かんでいなかった。
レイチェル:スタンフォード。
彼女はイギリスで生まれた。
スタンフォード家と言えば、イギリスでもかなりの高い地位を持つ貴族だった。
祖父が亡くなった後、父親が爵位を次ぎ公爵となった。
貴族院での議席を持つ上院議員でもあり、政治的な発言権も強かったスタンフォード家。
さらにビジネスでも成功を収めており、特権階級の中でも特別な立場として知られている。
まるで、日本の東雨宮みたいでしょ?」
レイチェルは葉月を見て無感情に告げる。
イギリスのカナンを取り仕切るのが、スタンフォード家、そしてレイチェルの父であるエドワード:スタンフォードだったのだ。亡き祖父と源一郎が親友で、カナンの創設にも関わっていたため、エドワードはカナンにおいてもかなりの発言権を持っている。
私は、イギリスのカナンで育っ
卓スた。」
カナンで育ち、いずれはカナンの指導者となるべく育てられたレイチェル。
たびたび小笠原のカナンやフランス、ドイツ等、大きな拠点のある国を回っていた。
中でも小笠原には何度も足を運んだ」
小笠原のカナンでは、源一郎や宗一郎、そしてエドワード等カナンの中心人物が年に1回程度会合を開いていた。
元々カナンは、祖父たちの代に築き上げた組織で、優秀な人材を集めた一企業に過ぎなかった。
優秀すぎる人材を集めていることから、選民意識が生まれ、どんどん宗教色が濃くなって行く。
スタンフォード家と東雨宮の資金力があったため、元々東雨宮の得意分野であった医療、薬品の研究の分野を強化して行った。