こういう日はろ

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ガリオンはごンはただち




ナドラクの森は、南に広がるアレンディアの森とはいささかようすが異っていた。両者の差はごく微妙なもので、ガリオンがそれに気づくには数日かかった。まず第一にかれらのたどる小径には、まったく人の入った形跡がなかった。めったに人が通らないため、森林特有のローム層の土は踏み固められていなかったのである。アレンディアの森には人の形跡があちらこちらに見られたが、ここでは人が侵入者であり、単なる通過物にすぎないのである。さらにアレンディアの森にははっきりとした境界があったが、ナドラクの樹海は大陸の端までにもおよび、この世の始まりよりそこにあったのだ。
 森はあらゆる生命に満ちていた。黄褐色の鹿が樹木のあいだに見え隠れし、黒い大理石のように光る曲がった角《つの》を持つ野牛が、空き地で草を食んでいた。一度など一頭の熊が、不機嫌なうなりをあげ、のどをゴロゴロ鳴らしながら、行く手をのし歩いていたことさえあった。うさぎたちは下生えの中をちょこちょこ走りまわり、うずらが時おり心臓も止まるような羽音を轟かせて足元から飛び立った。池や小川は魚やマスクラット、かわうそやビーバーが泳ぎまわっていた。またすぐにわかったことだが、さらに小さな生物もたくさんいた。すずめとほとんど大きさの変らない蚊、動く物と見ればかみつく小さな茶色い虫などもその仲間だった。
 太陽は暗い森をまだらな黄金色に染めながら、朝早い時間にのぼり、遅い時間に沈んだ。真夏にもかかわらず、暑すぎるということは決してなかった。夏が短く冬が長い北の国々と同じように、あたりの空気は急激な成長の気配に満ちていた。
 いったん森へ入るやいなや、ベルガラスはまったく眠るのをやめてしまったようだった。毎晩、疲れ切ったシルクとガリオンが毛布にくるまる頃、老人は来た道をひとり引き返し、暗い森に姿を消した。日没から数時間たち、夜空が星の輝きで埋まる頃、ふと目をさましたガリオンは、落ち葉の絨毯の上を走り回る軽やかな獣の足音を聞いた。再び眠りに落ちながら、ガリオンはすべてを理解した。足音は巨大な銀色の狼に姿を変えた祖父のものであり、追跡や危険の気配がいささかでもありはしないかと、森を見まわっていたのである。
 老人の夜ごとの徘徊は煙のようにひそやかだったが、他の注意を惹きつけずにはおかなかった。ある早朝のこと、まだ太陽ものぼらず、もやのかかった樹木が地表の霧になかば隠されている時間に、黒々とした幹の背後からいくつもの影があらわれ、一行からさほど離れていない場所で立ち止まった。目覚めたばかりで火を起こそうとしていたガリオンは、前かがみになりかけたまま、その場に凍りついた。ゆっくりと身を起こすあいだも、かれは自分に注がれる視線を感じ、肌がちくちくするのを感じた。十フィートほど離れたところに、巨大な森林狼の姿があった。狼の顔にはしかつめらしい表情が浮かび、その目は太陽のように黄色く燃えていた。黄金色の目には無言の問いかけが浮かび、ガリオにその質問を理解した。
「なぜ、そのようなことをするのか」
「そのようなこと、とは?」く自然に、狼の言葉で丁寧に聞き返した。
「なぜそのようななりをしているのだ」
「そうする必要があるからです」
「なるほど」礼節を守って、狼はそれ以上深く追及しなかった。だが別のことをたずねてきた。
「その姿では動きづらくはないのか」
「はたで見るほどではありません――いったん慣れてしまえばですが」
 狼は納得しかねる様子だった。かれは後足で座りこんだ。「おまえの別の仲間の姿を闇のなかで少なからず見かけた」狼は言葉を続けた。「なぜおまえたちがわれわれの縄張りに入ってきたのか、そのわけを聞きたい」
 ガリオンは本能的に、この質問に対する答えが重要なものであることを悟った。「わたしたちはあちらこちらと渡り歩いている者です」かれは慎重に答えた。「あなた方の縄張りを犯したり、あなた方のものである獲物たちを捕らえようなどとは、毛頭思っていません」自分でもわからないままに、答えがすらすら口をついて出た。
 狼はかれの答えに満足したようだった。「どうかあの霜のような毛皮の仲間に、われわれの敬意を伝えてくれ」狼はしゃちほこばった口調で言った。「どうやら、大いなる崇敬を集めておられるお方とお見受けした」


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